この事件は、世間的な関心も高いようで、ワイドショーなどでも多くの時間が割かれ、その横領の手口が報道されていますが、呆れ返るばかりですね。
前回の記事で「全く内部統制が無かったと断定していいです」と記載しましたが、誤りではなかったようです。連合会の役員諸氏の考えはともかく、報道されている範囲で考察すれば、内部統制が少しでもあったと判断することは出来ないでしょう。少なくとも有効な統制があったとは言えません。
(1) 引下ろしに必要な印鑑と通帳が同じ金庫に保管されていた
当然、別々に保管して然るべきです。通帳と印鑑があれば、預貯金の如何なる操作も可能です。不正な預貯金操作(今回の事件では横領)というリスクを想定するならば、印鑑と通帳は別々に保管、管理者も同一人にしないことは当然の管理策でしょう
(2) 犯人が通帳と印鑑を金庫から自由に出し入れしていた
通帳も印鑑も然るべき手続、つまり使用の申請を行い、管理者が照査し、その上で認証され、記録に残す、が必要です。そして、その記録を定期的にレビューしていれば、当該職員の使用記録が突出しており、詳しい調査が必要なことに気がついたのではないでしょうか。
(3) 監査は年に2回実施しているが、発見出来ず
大掛かりになる監査はだけでなく、出納に関する検査はもっと頻繁に行う必要あるでしょう。例えば、通帳に検査日までの最新の出し入れを記帳、検査すれば犯人による異常な出勤を早期に発見できた筈です。また、頻繁に実施される出納検査が、横領事犯の抑止効果になったと思います。
(4) 犯人を信じきっていた
善人だから、大丈夫だと考えていたようです。連合会幹部が報道機関のインタビューに答えていましたが、日頃真面目に勤務していたので、横領するとは思わなかったと話していました。性善説はやめましょう。資金が不正に操作される、横領されるというリスクに備えましょう。善人なら管理を緩くし、悪人なら厳しくするのでしょうか。そもそも、悪人と分かっていながら採用することはない筈です。
(5) チェックはしていたつもり
連合会役員は、報道機関からの質問にチェックはしていたつもりと回答していました。しかし、必要な検査照査が行われていないから、横領を許し、しかもこれだく巨額になるまで発覚しなかったのは明白です。
青森県住宅供給公社の巨額横領事件では犯人は懲役14年に処せられ服役中です。横領の法定刑の最高が懲役10年でしょうから、検察は他の罪状と合わせ併合罪で起訴し、裁判官もそれを認めたのでしょう。今回も国民の保険金を横領したので、検察は同じように他の罪状を合わせて可能な限り長期の量刑を求めてくるものと思われます。しかし、10億円という国民の貴重は保険金が弁済される訳ではありません。このような不正を起こさせない仕組みが必要なのでは言うまでもありません。
この手の事件で聞かれる弁解の常套句が、犯人が真面目であったとか勤務態度に問題は無かったとかです。そして、今後は性悪説にたち対策をとると言うわけです。内部統制は、性善説性悪説は全く関係ないと考えています。
当社は性善説にたち、社員を信用しているので、内部統制を必要としていませんとか、性悪説にたち社員に権限を委譲しませんとか・・・ 双方とも間違っていませんか。
社員に業務に必要な権限の委譲がなければ、業務は遂行できませんし、業務に潜むリスクに備えなければ、今回のような不正を防げません。
企業(事業体)は、信頼できると判断した場合に社員(職員)を採用し、職務の遂行に必要な権限を任せます。内部統制は、個々人を対象とする属人的なものではなく、業務プロセス中のリスクを対象とするものではないでしょうか。真面目で勤務態度の良いから、性善説にたち、職務上のリスクに対して、何の備えもしないというのは言い訳にもなりません。性悪説と称し、業務の遂行ができないのも愚の骨頂です。
私は、内部統制は想定されるリスクに対する備えだと考えています。想定されるリスクが小さければ、コスト面から考えて特に対策を採らないということも有りだと思いますし、また想定されるリスクの発生可能が低い、つまり脅威脆弱性が小さいので、管理策の程度を下げることも有り得ると思います(当然、経営陣によるリスクの許容が前提ですが)。リスクが有るから管理策が有るので、人の性格の良し悪しで左右される問題ではないでしょう。
私は、内部統制を性善説性悪説で判断していくいことには断行反対です。私も意見に賛同していただける同志を募りたいです。
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私も「内部統制を性善説性悪説で判断していくいことには断行反対」には賛同しますよ~。ということで第一号(笑)?
私の恩師は、「性善説を言う人には、ミスを犯さない人間なんていないじゃないかと反論すりゃいいんだ」とおっしゃっていました。「不正行為だけを考慮するのが内部統制ではない」ともおっしゃっていました。その通りだと思います。
この手の不祥事を目にするたびに、この言葉を思い出す私です。
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>ということで第一号(笑)?
はい、その通りです
>私の恩師は
U先生のことですね
>「性善説を言う人には、ミスを犯さない人間なんていないじゃないかと反論すりゃいいんだ」
その通りですね。故意や悪意による不正行為だけでなく、不注意や不作為によりリスクもあります。善人だとて決して無謬でありませんしね。
>不正行為だけを考慮するのが内部統制ではない」ともおっしゃっていました。その通りだと思います。
これも、同感です。内部統制は防犯ではなく、業務プロセスに内在するリスクに対する備えなのですから、不正行為だけが対象ではありませんね。だから、監査も決して捜査なのではなく、内部統制つまりリスクに対する備えの有無や判定や評価なのだと思います。
ところで、左肩は大丈夫ですか?
��月のISACA東京支部総会でお会いしましょう