そういう訳で、今日の話題は、一昨日金曜日の産経新聞の論説です。
以下は、産経新聞Webからの引用です。
【正論】神戸大学教授・加護野忠男 米型「内部統制」は効果疑問
神戸大学教授 加護野忠男氏(撮影・奥地史佳)
■日本企業に合わず競争力低下も
≪社内手続きを公式化する≫
日本の上場企業が、厳格な内部統制システムの導入に向けて準備を進めている。アメリカのサーベンス・オックスリー法(略称SOX法)を手本に日本の証券取引法が改正され、新たに金融商品取引法が制定された。この新法は、本家の名前をとって「日本版SOX法」と略称される。
この法律では、上場企業は2009年3月以降の最初の決算期までに、内部統制のシステムを作らなければならない。まず経営者が自己点検を行い、それを公認会計士が監査することが義務づけられる。内部統制システムの監査に備えて、経営者は業務の流れや社内手続きを公式化し、文書に記録させる必要がある。
アメリカのSOX法は、エンロンやワールドコムなどで相次いだ粉飾決算を防ぐためにつくられたもので、この法を施行するために、企業が従うべき内部統制の手順が事細かに規定されている。アメリカでも細かすぎるのではないかという批判が出てきて、見直しが進められている。
ところが日本ではかなり厳格なシステムが導入されそうである。このような厳格なシステムの導入が義務付けられると、企業はよい経営ができなくなる。投資家の利益も損なわれることになる。次の4つの問題があるからである。
≪コスト大きく組織硬直化≫
第1に、このような制度は、その導入に大変大きなコストがかかる。ところがそのコストを正当化するだけの効果が期待できそうにない。
第2に、日本の場合、このような制度は不要である。アメリカ型の内部統制システムは、経営者も管理者も必要に応じて外部から雇い入れるというアメリカの人事制度を前提にしてつくられたものである。
日本の会社にはもっと効果のある仕組みがある。人事部を中心にした多重的な信頼チェックシステムである。日本のトップや管理者は、内部から時間をかけて昇進してきた人々がほとんどである。長時間の間に、その人物が信頼できるかどうかが、多くの人々の目でチェックされている。このような濃密な内部統制が行われているところでは、アメリカ型の形式的な内部統制システムは不要なのである。それよりも、人事スタッフを増員するほうがよほど効果的である。
第3は、官僚主義の弊害が出てくることである。何事もルールに従って判断するという官僚主義的な仕事の進め方がうまく機能するのは、環境の変化がほとんどなく、顧客を待たせても問題が起こらない場合である。残念ながら、そのような恵まれた環境にある日本企業はほとんどない。
最後の問題点は、日本企業の独自の強みが失われてしまう危険があることだ。日本の組織の強さは、現場がその知識に基づいて、ルールや手順を柔軟に変えていくことにある。それをトップダウンで決めてしまうと、企業としての柔軟性が失われてしまう。まさに角を矯めて牛を殺すという結果になってしまう。
このような問題があるために、内部統制システムを導入すると、良い経営が行えなくなる。それにもかかわらず、硬直的なシステムの導入が義務付けられるのは、投資家の信頼回復、投資家保護という大義名分のためである。
≪投資家にとり大切なこと≫
投資家にとって大切なのは、企業で良い経営が行われて、企業価値が上昇することである。にもかかわらず、投資家保護がこの本来の目的から外れてしまうのは、規制当局の論理が優先されてしまうからである。
規制当局には、投資家にとって望ましくないことを避けさせようとする姿勢がある。そのようなことが起こったときに規制当局者の責任が問われるからである。規制当局には、投資家にとって良いことを実現させるという任務はないのである。そのために、不祥事が起こるたびに企業に課せられるルールが厳しくなっていく。
最近の日興コーディアルの利益粉飾事件のように投資家をだまそうとする企業経営者は後を絶たない。確かにそのとおりなのだが、このような経営者は全体から見ればごくわずかである。にもかかわらず、このような例外的経営者を想定したルールがつくられ、健全な企業の経営の邪魔をしてしまう。内部統制のシステムはまさにそれである。
硬直的な統制制度が導入されれば、日本企業の将来が心配だ。不祥事は防げるが、企業の競争力も低下するだろう。上手な規制をしないと、株価は上がらない。下手な投資家保護は投資家の利益にはならない。(かごの ただお)
(2007/01/26 09:36)
J-SOX法の対象なる企業は、同法への対応のために業務プロセスの文書化、手続きの再検証など、今後一年間で作業を終える必要があります。
現時点においてもSOX法そのものには、色々は議論があります。上記論説のように、無用だというもの、いや必要だという意見、ダイレクとレポーティング方式への見直しが必要だ・・・云々などなどです。
私は、SOX法のような内部統制の導入は有用だと考えています。ただ、どの程度まで実施すればいいのかという検討は必要だと思います。が、まずは企業内での遵法意識の向上でしょうね(法律だけでなく、社内規定なども含めて)。それが無ければ、どんなに高度な内部統制の仕組みを導入しても形骸化してしまいます。談合決別宣言後も地方支社で継続していた建設会社、取得したISO基準を遵守していなかった食品会社・・・ 制度は適切に運用されてこそ意義があるものですから。