2005年10月17日月曜日

個人情報保護法と捜査照会

以下、2005年10月17日の読売新聞掲載記事よりの引用です。

 刑事訴訟法に基づく警察の正式な捜査照会に対し、各地の病院や自治体などが個人情報保護法などを理由に回答を拒否するケースが、今年4月の同法全面施行から6月までの3か月間だけで、約500件に上っていることが警察庁の調査で分かった。

 うち約4割は医療機関で、福岡県のように県警と県医師会が「出来るだけ捜査に協力する」と申し合わせたところもある。医療関係者は、厚生労働省や日本医師会の作成した同法関係の指針が誤解や拡大解釈を招き、独り歩きしている影響があると指摘している。

 保護法は、本人の同意なく第三者に個人情報を提供することを原則禁じているが、「法令に基づく場合」「生命、身体、財産の保護のため必要な場合」「本人の同意を得ることで事務の遂行に支障を及ぼすおそれがあるとき」などは例外と明記されている。「法令」には、令状による捜査や、刑訴法197条に基づく捜査照会なども含まれる。

 しかし、実際には、捜査に協力を得られないケースが相次いでいるため、警察庁は、刑訴法に基づく「捜査関係事項照会書」を医療機関などに示して協力を求めたのに拒否されたという例を調べた。

 同庁によると、判明した約500件のうち、病院関係は約200件。回答拒否の内容としては、事件・事故でけがをした当事者の容体や、事件関係者の病名・病歴、変死者の既往歴などが目立ち、容疑者の入院の有無についても「本人の許可がないと答えられない」としたケースがあった。また、約100件は市町村などの自治体関係で、回答を拒否されたのは、公共料金の支払い状況や生活保護費の受給の有無などだったという。

 刑訴法に基づく捜査照会のほか、警察が事件・事故のけが人の容体を口頭で問い合わせた場合に病院が応じないケースも相次いでいることが、読売新聞がこれまでに実施した全国調査で明らかになっているが、公益性のあるこうした問い合わせについては、応じても保護法には違反しない。

 警察庁では「保護法の全面施行前はあまり見られなかった現象で、捜査に深刻な支障が出ている」として、調査結果を詳細に分析するとともに、今後、関係機関に理解を求める方針。

 医療機関の対応の背景について、医療関係者は、厚労省や日本医師会の指針に「照会に応じても保護法違反ではないが、本人から損害賠償を求められるおそれもある」などと記されている点を挙げる。これに対し、同省では「一般論として例示しただけで、過剰に受け取られるのは本意ではない」としている。

��2005年10月17日3時0分 読売新聞)



個人情報保護法の施行後、警察の捜査に支障が出ているとの記事です。しかし、これは事前にある程度予想されていた事態ではないでしょうか。医療機関側の明らかな過剰反応ですね。捜査照会以外でも似たような事例があるのだと思います。

医療機関というか、医師には以前から患者の秘密に関する証言拒否権があり、また患者の秘密に関しては押収命令を拒否する権利もあるそうです。これは、患者の事柄は、むやみ漏らすなということ、所謂、医師の守秘義務の根拠のなのでしょうね。ならば、個人情報法保護法施行以前に、医師の守秘義務を根拠とした、捜査照会の拒否ということはあったのでしょうか。あっても不思議ではないはずです。個人情報保護法は、個人の責任を問いませんが、仮に医師が患者の情報を漏洩した場合、刑法第134条の秘密漏示罪(親告罪)で告発される可能性はあるそうですから。個人情報保護法より医師個人には厳しいものがあります。しかし、以下のような判決もでています。

以下、2005年7月19日 読売新聞掲載記事より引用です

覚せい剤の反応が出た尿を医師が警察に引き渡したのは、医師に課せられた守秘義務に違反するかどうかが争われた裁判で、最高裁第1小法廷(横尾和子裁判長)は、「必要な治療や検査の過程で採取した尿から違法な薬物を検出した場合、捜査機関に通報するのは正当な行為であり、守秘義務に違反しない」との初判断を示した。

 そのうえで、覚せい剤取締法違反(使用)の罪について無罪を主張した女性被告(26)の上告を棄却する決定をした。決定は19日付。懲役2年とした1、2審判決が確定する。

 決定によると、女性被告は2003年4月、腰に刺し傷を負って東京都内の病院に搬送された。医師は、腎臓からの出血の有無を調べようと採尿し、さらに薬物の影響を確かめるため尿を検査したところ、覚せい剤の反応があったことから警察に通報。

 被告側は、刑法が定める守秘義務に違反して捜査機関に渡った尿を証拠採用したのは違法だとして、無罪を主張していた。




犯罪行為が係わる場合は、患者の情報を捜査機関に通報することは、医師の守秘義務違反に当たらないということです。この事例の他にも、幼児/児童虐待が医師の通報により発覚、子供達が悲劇的結果になる前に保護されるという報道もありました。

患者の情報を守るということが結果として、法令違反や生命の危機をを見逃すことになりかねません。医師の守秘義務は、その適用範囲に判断は、難しいですね。

しかし、10月17日付けの記事では、医師の守秘義務より、個人情報保護法の取扱により慎重である印象があります。何か、本末転倒という気がします。

医療機関や福祉関係機関が、個人情報保護法を理由として、個人情報の提供に慎重になり、ボランティア活動や行政の施策が支障がでる例などもあるようです。個人情報の保護という前提は崩さずに、法律の実際の運用面での実情の検討が必要なのだと思います。どうでしょうか。

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